エッセイ・NO.3 「極上(?)馬毛筆」 (2008.3.1)

 「これまでは、やわらかい羊毛筆を自分の思い通りになるように腕に力を入れて使っていたが、
もう歳を取ったのでくたびれる。楽に動かし易い<馬毛筆>の極上の筆を作って。」という注文を受
けました。

 私も時折、下手な字を書いて遊んでいますが、少し大きい文字を書くときは、気がつくと<馬毛
筆>を手にしていました。20数年前、独立してまだそんなに経ってない頃、手元にあった馬毛の
原料から、毛先が鋭くて細い上質の部分だけを選び出して、何本か作りました。1本だけ残って
おり、それを愛用しています。いまだに毛先は鋭く、反発力も強く、自分で作ったものながら、
使い心地満点の筆です。

 そこで、久しぶりに純馬毛の極上の筆を作ることにしました。馬毛は筆の業界では<天尾>
(あまお)といわれています。馬のシッポの処の20p位までの寸法のものです。色は、赤(栗毛)、
黒、白があります。更に長さ40〜60cm位の<タテガミ>もあり、特に太筆を作る時の原料にな
ります。                          【馬毛太筆】(←クリック)

        
    白タテガミ、白天尾、黒天尾、赤天尾、 「-3081-上品 泰山」、 「-3085- 泰山」 ⇒【中筆A】

 実は、この天尾の原料がすごく悪くなっています。以前は選別していて、ひとつの包みの中から
数割位良いところが出ましたが、いまは一割前後。そのうえ、値段も数倍に値上がりしています。

 そのため、極上の馬毛筆は、最近作るのを控えていたのですが、この度、思い立って製作しま
した。〔-3081- 『上品 泰山』(7026) ¥18700-〕です。手元にあった赤天尾の中から
上質(細くて毛先の鋭いもの)の処だけをより出し、更に、製作途中では、毛先の磨り減ったの
は徹底的に抜き出して仕上げました。(いわゆる<サラエ>といいますが、上質を選び出したと
はいえ、原料があまり良くないので、高度な技術を要します。)

 やっと20本程作ることができました。私の愛用の古い馬毛筆より、やはり、若干劣る気がしま
すが(それで、?マークを付けました)、現時点では極上馬毛筆です。

 筆の原料は、値段や品質や流通量が時代によって変わります。私が入門した頃は、羊毛筆の
人気が高かったのに、原料の羊毛が品薄でした。そのため極上羊毛筆は、なかなか作ることが
できませんでしたが、少しでも作ったら、少々値段が高くてもすぐに売れました。現在は、羊毛の
原料が不足していないので、そんなことはありませんが、将来のことは残念ながらわかりません。

 筆の価格や品質は、原料の品質や流通量などが変化することによって大きく影響を受けます。
いずれにせよ、少しでも良い原料を自分の目で見て仕入れ、量産は出来ないものの、品質の高
い筆を作り続けるよう、心がけています。

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